引き返し不能地点、あるいはもはや手遅れか
引き返し不能地点、あるいはもはや手遅れか
世界の人々が論理的に改善策を考え出さないように、事実を隠す。出てきた事実は嘘だと突っぱねる。なぜか。自分達の利益追求に邪魔になるから。
10年以上前の夏、いつも使うサンフランシスコ空港からではなく、シリコンバレーの南域にあるサンノゼ空港(San Jose スペイン語読みでサン・ホセ)からアメリカン航空で帰国をはかったことがある。搭乗機が猛然と滑走を始めて数秒後、突如急激なブレーキがかかり、滑走路上で停止し、ついで、ターミナルに引き返した。機内アナウンスによれば、エンジンの一つの出力が規定に達しないので離陸を取りやめたということであった。結局その日は飛ばず、帰国は翌日となってしまった。この空港は滑走路が比較的短く、夏場には乗客満席では飛び上がれない。日本までの燃料を一杯に積んでいるので、夏の暑い空気では重すぎると浮揚力がつかないためだろう。
離陸には、滑走路半ばに「point of no return」があり、取りやめはこの地点の前で決断しなければならない。この地点を過ぎてしまうと、後は何が何でも一度空中に浮かび上がるしかない。この引き返し不能地点は、第1義的には、航路の途中の地点をいう。この地点を過ぎれば出発地に引き返すことは不可能で、後は目的地にしゃにむに飛ぶしかない。
地球温暖化がこの「point of no return」を過ぎてしまったのではないかという、恐ろしい記事を先週読んだ。題して、Global Warming past “point of no return”
A record loss of sea ice in the Arctic this summer
has convinced
scientists
that
the northern hemisphere
may have crossed a critical threshhold
beyond which
the climate may never recover.
今年の夏の北極圏の海氷の記録的な消滅は
そこを超えると気候が二度と元に戻らないという
決定的な境界(臨界点)を
北半球はすでに越えてしまったのではないかということを
科学者達に
確信させることとなった.に
Arctic specialists
at the US National Snow and Ice Data Centre at Colorado University
believe
that
a more dramatic melt began about four years ago.
劇的な溶解はおよそ4年前に始まった.
“The feeling
is we are reaching a tipping point or threshhold
beyond which
sea ice will not recover.”
それを越えると海氷は元に戻らないという
頂点、すなわち臨界点に到達しつつある、
というのが
われわれの 感触である.
氷が少なくなると太陽熱の吸収が増え、それがますます残りの氷の溶解を加速する。
英国Cambridge Universityの北極圏の氷の専門家Peter Wadhams教授の話によると、これまでのシミュレーション結果によるところの、夏季に北極圏の氷が全部溶ける時代は2070年、という見積もりは、あまりにも楽観的(over-optimistic)ということだ。
これでは、北極海を通っての、日本と欧州間の海の定期航路が開通するのも間近かも知れぬ.もっともそのときには、晴海埠頭は水の下になっているかも。恐ろしい話だ。
(05.9.24 篠原泰正)