貝塚
貝塚
前にもここで書いたと思うが、私はこの20年以上、上野の山から続く道灌山というところに住んでいる。近くの日暮里のお寺の正門には、上野戦争のとき、逃げ込んだ彰義隊を追っかけてきた官軍が撃ち込んだ弾痕が、今でも残っている。台地の上を走ってくれば上野からすぐに来られる距離である。
この、住んでいるあたりは、どこを掘っても弥生の住居跡が現れ、その下からは縄文の住居跡が現れる。住むのに適した土地だったのだろう。そりゃそうだ。この台地の東側、山手線の外側は一面海だったのだから、海の幸の取り放題だったのだろう。今はもうないが近くには貝塚も在ったらしい。現在の台地の高さは海抜16メートルであるから、当時、縄文時代、8千年ぐらい前は海抜10メートルぐらいだったのだろうか。
また、奈良時代に書き写された日本最古の地図を眺めると、この武蔵の国の東端(隅田川までのわずかな距離)から川向こうの下総の国は、入り江と川が入り組み、その間に台地がポコポコと浮かんでいるような図になっている。江戸時代から明治にかけても、治水工事が行き届かなかった時代には、この下総の国(今の埼玉県・千葉県の一部)は水郷地帯のようなもので、どの農家の納屋の天井にも舟が吊るされていたという。洪水時の備えである。
このように、そんなに遠い昔でもない時代には、海は深く内陸に入り込んでいたわけだ。なぜその海が引いていったのかは、私の乏しい知識では分からないが、海面の高さが変るということは、地球から見れば異常なことではないことになる。
アメリカのNASAの著名な科学者ジェームス・ハンセン(James Hansen)博士のレポートの中に以下のような言葉があるのを見つけた:
About 14,000 years ago,
sea level rose approximately 20 meters
in 400 years,
or about 1 meter every 20 years.
海の水が上がるときには急速に上がるのだ。そのとき以来、縄文の時代には、海面はずっと下がっていったとしても、遺跡が示すように、上野から道灌山にかけては海に突き出した半島であったことになる。
今年になって、「The Big Melt」(07年10月発行)という背筋も凍るレポートをここで紹介したが、今月(2月・08年)になって、同じくオーストラリアのCarbon Equityという団体がFreinds of the Earthと共同で「Climate Code Red」という題名のレポートを出した。上のハンセン博士の引用はここから取った。
このレポートは、題名が示すように、地球温暖化への取り組みはもうまったく待ったなしですよ、と悲痛な声を上げている。ひと言で言えば、CO2の排出を「抑える」なんてものではなく、大気中のCO2の量を、1980年代半ばまでの300から350PPM(parts per million)まで落とさないと(現在は既に385PPM)、地球は救えない、つまり「抑える」のではなく、マイナス排出(negative CO2 emissions)が必要ですよ、ということである。昨年、11月に最終報告が出たIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)の予測はあまりにも控えめであり、北極海、グリーンランドおよび南極大陸西岸の異常な氷の溶け方はデータに入っていないと警告している。事態はあらゆる世界の科学者の予測を超えて急展開しているという。
このレポートもハンセン博士も、今動けばまだ間に合う、と述べてはいる。しかし、われわれを含めて世界の先進諸国の国民と政府が、これはいかん、と動くだろうか。100%有り得ない。CO2の排出を劇的に減らすことは、劇的に経済生活を変えることを意味する。無理だ。数年の内に、ありとあらゆるビルの屋上から住宅の屋根まで太陽パネルで被えるだろうか。そこら中に風車発電塔を乱立させているだろうか。自家用車は自転車になり、タクシーは人力車になり、クロネコヤマトの車はすべて電気自動車になっているだろうか。無理だ。
もちろん、日本(人)が真っ先駆けてシャカリキにCO2排出ゼロに取り組む事はありえる。しかし、東と西の両大国にそのような動きは期待できないだろう。
まあ、それでも、ここは一丁、侠気(狂気?)を発して、頭と身体をフル回転させて、「男だ、ニッポンジン!」とやるしかないか。
上に上げたレポートは以下のアドレスから簡単にダウンロードできます。多くの人に読んでもらいたいから分かりやすい英語で書かれています。勇気のある人は、ぜひお読みください。
www.carbonequity.info/
または
www.foe.org.au/ (フレンド・オブ・アース)
または
www.climatecodered.net/
(08.02.19 篠原泰正)