連載-10- なるほどこれでなっとく!「著作権」実演家と演奏者
スペイン知的財産事情
この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。
連載-10- なるほどこれでなっとく!「著作権」実演家と演奏者
No.257 Junio 2008
音楽のビデオクリップやフラメンコなどを居心地の良い部屋で大画面に写して見るのも楽しいですが、コンサートホールの生演奏や劇場で見るミュージカルなどの生のエンターテインメントには、他には変えられない感動があります。そんな魅力を表すエンターテインメントの中で最近増えているのが音楽フェスティバル。今年マドリッド郊外のアルガンダ・デル・レイで6月27日、28日、7月4日 ~6日に開催される『ロック・イン・リオ』は世界最大のロックフェスティバルとして有名です。これは発展途上国の子供たちの援助のためにリオデジャネイロで1985年に初めて開かれた巡回フェスティバルで、2004年のリスボンでは8万5000人の観客を集め、マドリッドにも世界中から名だたるアーティストが出演する予定で、多くの観客を感動させることでしょう。
今回のテーマは実演家と演奏者。具体的には、演じる・歌う・読む・朗読する・演技する・またはある作品を何らかの方法で実施する人を指します。これらのアーティストたちは、著作権人格権で自分の実演を録音・録画する複製権、不特定多数の人々に、事前にそれぞれに作品実物を頒布することなく、著作物へのアクセスを可能にする公衆伝達権、自分の実演の録音物または録画物を公衆の利用に供する領布権、著作物に対して行われる翻訳、脚色、その他の修正で、別の著作物を生み出す変形権といった権利を保護されています。これらの著作権人格権の侵害は、新人でも伝説的なアーティストでもその人のイメージや、威厳を傷つけることが多いようです。ですから侵害された場合には経済的な賠償を請求するよりも、全国的なメディアを通して謝罪広告や謝罪を放送してもらったほうがより価値があると言えるでしょう。そうすることによって人々はアーティストがどこで演じても、このアーティストの本質的な演技の質を見分け、応援することでしょう。
スペインの著作権法では、これらの権利に対して実演家や演奏者が報酬を得る権利をうたっています。一般的にはこれらのアーティストが登録している著作権を管理する団体が、公表:事前に公表されていない作品または録音された実演を複数の人がアクセスできる時、賃貸:限られた時間経済的な利益を得て作品のオリジナルまたはコピーにアクセスできる時、私的複製:複製した人の個人使用のために複製することによって得た著作権収益を実演家や演奏者に分配します。アーティストの権利の有効期間は、その作品が演じられた日または録音された日から50年です
今日多くの実演家と演奏者たちが心配しているのは、海賊版と私的複製に対する報酬についてです。海賊版対策としては、DVDなどのソフトに対するIVA(付加価値税)の減税を求めて国との長い戦いが続けられています。これは減税されればソフトの単価が下がり、消費者が買いやすくなると言う考えです。
私的複製で問題になるのは、消費者は例えば個人が買ったDCを私的利用のために複製することは著作者にあまり経済的な損失を与えることはないであろうと考えていることです。アーティストの報酬についての法律は、スペインでは1987年からあり、またソフトの他にも1992年からはアナログのハードと文学・音楽・オーディオビジュアル作品を複製することのできる機器に対しても補償金が定められました。今日では世界のあちこちでDVD-RやCDなどの『記録媒体』やI-padやDVD録画機のようなデジタル方式の録音または録画の機能を有する『機器』の購入時に補償金を加算して徴収するシステムもありますが、一般市民の中には反対派が多く、また管理団体の分配方法にも問題があるなど、多くの争点を抱えています。料金が加算されることにより高嶺の花になってしまっては意味が無いことは明確ですが、簡単には解決しそうにありません。
大切なのは実演家や演奏者は、演じる国における自分の権利を知って、正しく利用されるように契約書などをチェックすることでしょう。