特許調査の専門家が教える「適切な特許分類の選び方」【初心者向け】
1.はじめに
特許調査における検索では、キーワードだけではなく、「分類」を用いた調査が一般的に行われます。
適切な特許分類を選択することは特許調査において極めて重要です。
今回は、特許分類をどのように選んでいくかについてお話しします。
2.特許分類とは何か?
特許分類とはごく簡単に言えば、特許の技術内容に従い付与された分類で、アルファベットと数字で表記されます。
特許分類を検索に用いるメリットは、人間が実際に公報の内容を確認した上で付与されていることです。
一般的なキーワード検索では、表記が少し異なるだけでヒットしなくなります。
特許明細書では、あえて難しい(あまり使わない)表現や上位概念で記載されている場合もあります。
(例:包丁⇒庖丁、調理用ナイフ、料理に用いられる刃物・・・)
特許分類では(基本的には)同じ技術内容は同じ分類が付与されるため、キーワード(単語)の表記に関わらず網羅的な検索が可能となります。
上記の例では、包丁に関する特許にはFI:B26B3/00 Cが付与されています。
特許検索で主に用いられる特許分類として、下記が挙げられます。
(1)IPC(International Patent Classification)
国際特許分類のことで、国際的に統一されて用いられる分類です。
技術分野を階層ごとに分けていく形で分類されます。
(※イメージ: 化学⇒無機化学⇒非金属元素⇒ハロゲン⇒・・・)
後述のFI、CPCのベースとなっています。
(2)FI
日本特許庁が独自に定めている分類で、IPCを細分化したものです。
IPCと比較し具体的な内容まで分類が作られているため、日本特許について調査する場合はこのFIをメインとすると検索が一般的です。
残念ながら、日本のみで用いられているため、海外特許の検索には使用できません。
(3)CPC(Cooperative Patent Classification)
「共同特許分類」と日本語では呼ばれ、米国特許庁(USPTO)と欧州特許庁(EPO)でそれまでに使われてきた独自の分類を統一して作られた分類です。FIと同様にIPCを細分化して作られています。
海外主要国(特に欧米)の特許検索時に有用な分類です。
ただし、使用開始が2013年からと比較的近年であり、古い年代の分類付与精度があまり良くない点や、分類が細かすぎて探すのが難しいといった点に気を付ける必要があります。
(4)Fターム
発明の技術的特徴に従って分類された日本独自の分類記号です。
上記の分類は階層上に細分化されていますが、Fタームは細分化された分類を横断するように同一の特徴を有する技術に付与されます。
FIよりもピンポイントな分類定義が存在するケースも多く、その場合は検索が楽になります。
その一方で、適切なFタームの選定が難しい(かえってノイズが増える)場合も多く、付与精度もFIより高くないため、筆者は補助的に用いる程度にしています。
3. 適切な特許分類の探し方
実際に分類を用いて特許検索をするためには、適切な分類の選定が必須となります。
ここでは、日本特許の検索時に、一般的にメインとして用いられる「FI」を中心にお話しいたします。
特許分類は、特許庁の分類対象ツール(https://www.jpo.go.jp/cgi/cgi-bin/search-portal/narabe_tool/narabe.cgi)やJ-PlatPat内の特許・実用新案分類照会(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p1101)で検索が可能です。
分類をキーワードで検索することも可能ですが、先ほどお話ししたようにキーワードでは表記がわずかに異なるだけでヒットしなくなります。
しかも、FIの名称は表記のブレがあり、適正なものが検索しづらいという問題もあります。
(例:ネジとねじ、瓶とビン、印刷とプリント等)
そこで、『まずはキーワードで近そうな特許をいくつか検索』し、ヒットした特許に付与されている分類を参考にして、分類の選定を行います。
ツールとしては無料のJ-PlatPatがお勧めですが、より多機能な商用データベースの使用が可能でしたら、そちらを活用されるとよいでしょう。
《分類の選定・絞り込みのヒント》
キーワードで検索するわけですが、検索項目としては『全文』『要約』『請求の範囲』等があり、筆者は下記のように使い分けています。
- 調査したい単語が『動作、状態』『一般的なモノの名称』の場合は『要約』と『請求の範囲』で検索する。『全文』では明細書のどこかに入っていれば全てヒットするため不要な公報(ノイズ)が多数ヒットしてきます。
- 『具体的な物質名、固有名詞』の場合は『全文』で検索する。検索するキーワードが特定のモノを指す場合、特に『請求の範囲』では上位概念で広めに記載した上で明細書中で具体的な説明がされることが多いためです。
- 調査対象の技術が普及し出した時期がわかるなら、出願日で限定します。
検索結果の件数は多すぎても確認しきれないですし、目的外の特許がヒットする可能性も上がります。件数としては50-100件程度がお勧めです。
ヒットした案件を確認しつつ、関係しそうな分類を選択していきます。
この際、筆者はなるべく多く使われている分類と、サブクラスの階層で異なる分類を多く拾うようにしています。
例えばH01M(電池関係)がメインの技術でも、H01G(コンデンサ)の技術が該当する場合もありますし、より上の階層で素材の面からセクションC(化学)、組みあがった製品としてセクションF(機械)の両方が付与されることなども頻繁にあります。漏れのない調査のためには、分類は最初の段階ではなるべく多く見ておくことが重要です。
後は、選択した分類を起点とし、上位の階層の分類や近い範囲の分類を確認していきます。最低でも選択した分類が属するメイングループおよびその一階層下の分類(ドットが1つ)は確認が必要でしょう。
また、番号の大きい下の方に表示されるメイングループで別観点による分類が作られていることも多いため、見逃さないよう注意が必要です。
ここまでFIについてお話ししましたが、Fタームについても同様の作業により適切なものを選ぶことが可能です。
加えて、Fターム(テーマコード)はFI適用範囲が決められていますので、選択したFIに対応するテーマコード内でFタームを探すのも効率的です。
4. やっぱり特許分類だけでは限界が・・・?
特許調査における第一のステップである分類の選択についてご説明しましたが、適切な特許検索のためにはまだまだやるべきことがあります。
前述の通り、特許分類は人が内容を確認して付与しています。
人の作業ですから当然判断ミスが出ることもありますし、付与者によりどの階層まで見て分類を付与するかが変わることも考えられます。
上位の階層の分類を用いて下位の分類を全て含む検索(階層検索)をすれば漏れの可能性は減りますが、ヒットする件数は多くなっていきます。
そこで、キーワードと組み合わせて検索することでノイズを減らし、現実的な件数へ落とし込んでいく作業も必要になってきます。
次回は、特許調査における検索キーワードの選び方についてご説明します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・I)