連載-18- なるほどこれでなっとく!「産業財産権」 特許
スペイン知的財産事情
この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。
連載-18- なるほどこれでなっとく!「産業財産権」 特許
No.265 Marzo 2009
知的財産立国を目指す日本ですが、他社とは差別化した革新的な製品・サービスを作り出すのに重要なのが特許権。世界知的所有権機関(WIPO)によると、昨年の国別国際特許出願件数で日本はアメリカに続く2位。企業別トップ10内の日本企業はパナソニック・トヨタ・富士通。
特許とは産業上利用することができる新規の発明を独占的、排他的に利用できる権利。基本的には特許庁に出願して必要な条件を満たしているかどうかの審査を経て特許原簿に登録されると発生し、他人はその発明を許可無く使用・製作・販売・頒布することはできません。また逆に発明、考案、創作しても、それが特許権の権利をとっていない時は、他人に真似されたり、使用されても訴えることはできません。出願することができるのは、発明者・考案者・創作者自身、または特許を受ける権利を承継した者に限られます。また特許には大きく分けて国内特許・欧州特許・国際特許があります。
世界三大発明は火薬・羅針盤・印刷術ですが、では発明とは何でしょう?日本は発明の定義を法律の条文で与える数少ない国の1つです。特許法で、発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。多くの国において、発明の定義は、法律の条文ではなく判例と学説によって与えられています。従って、裁判官や国によって解釈の仕方に違いを生み、問題が後を絶ちません。
その代表例はコンピューターソフトウェアの特許。日本とアメリカでは特許として登録することができますが、ヨーロッパではまだ認められていません。スペインでは知的財産の著作物として登録することができますが、発明として特許の登録はできません。著作権の保護対象は著作物の表現形式であるのに対し、ソフトウェアの価値はその内在的な技術思想です。またソフトウェアには『機能性』が備わっているので著作権法だけでは保護できないとされています。
しかし著作権には良い点もあります。自動保護・より長期にわたる保護期間・ソフトウェアの改良を更新することが可能・権利者は何の義務も果たす必要が無い・維持費が安い。一方マイナス点は、知的財産の登録出願において、その反対を立証された場合以外はあなたが創作者であると推定されること。
欧州議会は欧州特許条約でコンピューターソフトウェア自体に特許保護を与えることを明確に否定することによって、数多くの国内条約にある不透明度と調和不足に終止符を打とうとしていますが、その反面ヨーロッパ企業のアメリカ企業に対する競争力と市場優位性を脅かしていることは否めません。
もう1つ問題が多い分野はビジネスモデル特許。98年からアメリカでビジネス方法であっても特許となりうることが明確になり、純粋なビジネス方法でも特許になるとの誤解が生まれたことから、米国でビジネス関連発明の出願が急増。
日本でも2000年に前年比で4倍以上の出願がありましたが、実際には拒絶査定率は約92%に達し、それらの出願の多くは発明であること・新規性があること・進歩性があることという、特許には欠かせない最低条件3つをかなえていず、拒絶されました。スペイン法は、商業活動のための図面・規則・方法は特許にできないと制定しています。無形の要素と有形の要素を組み合わせた結果斬新に見えるものができたとしてもそれだけでは登録できず、インターネットなどの情報技術と、創造性のあるビジネスモデルを組み合わせて、初めて特許の可能性が出てくるということです。
誰にも時に面白いアイデアが浮かぶことがあります。学歴が無くても素晴らしいアイデアを持っている人たちはたくさんいて、そのようなアイデアもプロの助けを借りれば発明として特許化でき、自国のみならず世界経済の発展に役立つこともあるでしょう。素敵なアイデア、眠っていませんか?