連載-19- なるほどこれでなっとく!「産業財産権」 実用新案
スペイン知的財産事情
この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。
連載-19- なるほどこれでなっとく!「産業財産権」 実用新案
No.266 Abril 2009
実用新案とは「小さな発明・ユーティリティモデルズ」とも呼ばれる、物の形状・構造・組み合わせの新しく独創的なアイデア(考案)を独占的に製造、販売することができる法的権利です。前回ご紹介した特許に比べ、日本とスペインを含む43か国のみで適用されています。その特徴としては、出願してから権利発生までスペイン・日本共に特許は平均4、5年かかるところ、実用新案は日本で約4か月、スペインでは約8か月という短期間ででき、かかる費用も安いことから小発明の権利保護に適しています。また実用新案の有効期間は日本・スペイン同様10年、一方特許は20年ですので、ライフサイクルの短い商品に適していると言えるでしょう。
実用新案の歴史は古く、日本では1905年、スペインでは1929年から。日本の特許法第一条には、「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」とあります。発明者は、自分の発明を他人に盗まれないよう秘密にしておこうとするので、一定期間、一定の条件のもとに特許権や実用新案権という独占的な権利を与えて発明や考案の保護を図る一方、その発明や考案を公開して利用を図ることにより、新しい技術を人類共通の財産としていくことを定めて、これにより技術の進歩を促進し、産業の発達に寄与しようというものです。したがって世界の大企業が発明から生まれたと言っても過言ではないほど、特許や実用新案は大切なものです。日本の実用新案で有名なのはパナソニックの二股ソケット。スペインではモップの水を絞るバケツがありますが、これらの例で分かるように実用新案はソケットやバケツなど既存の製品や道具、装置などに新たな機能や効果、手を加えることによって、時間やお金、手間を省き、またより衛生的にするなど、そのものをより便利にする「考案」と呼ばれるアイデアを指します。したがってちょっとしたヒントから「考案」が生まれることも多く、「発明研究会」や「発明学校」などもあり、小学生から主婦まで様々な人々が日常生活に密着した斬新な実用新案を生み出すことも多々あります。
実用新案の独占権が認められるには、特許権と同様、新規性(新しいものであること)、進歩性(従来あるものから容易に考え出せないこと)を備えていることが必要です。また、特許法の保護対象とは異なり、技術的思想の創作のうち高度のものであることを必要とせず、自然法則を利用した技術的思想の創作で形状・構造・組み合わせに係るもので、方法に係るものは対象となりません。
実用新案権は早期権利保護を図る観点から、書類など形式的な面をクリアし、特許出願時に行われる実体調査(権利有効性の審査)無しで権利化されるため、中には権利として無効なものも当然含まれてきます。とはいえ実用新案は中小企業が少ない費用で既存の製品に特徴を持たせ、他社製品と差別化するのにお勧めです。パッケージなどに「実用新案申請中 申請番号○○番」と記せば権利としては確立できていなくても、いち早くその考案を利用し、他者に真似されることを防止できるでしょう。また特許と並行して実用新案を出願することにより、より強力に権利保護を行おうとするケースも見られます。
スペイン特許庁の発表によると、2008年の特許・実用新案の出願数は前年に比べ増えており、実用新案の売買もよく行われていることから、経済不況が逆に多くの人に発明や考案を権利化し、一獲千金の可能性を求めさせているのではという見方もあるようです。あなたの素晴らしいアイデアが店頭に並び大成功することがあるかもしれません。しかしながら登録されていなければ意味が無いことをお忘れなく。