連載-20- なるほどこれでなっとく!「産業財産権」 意匠権
スペイン知的財産事情
この原稿は、スペインと日本間の知的財産権を専門に扱う法律サービス会社であるリーガルスタジオ社の真覚久美子氏とカルロス・アバディン氏(弁護士)の著作です。
連載-20- なるほどこれでなっとく!「産業財産権」 意匠権
No.267 mayo 2009
意匠権とは日本の法律では「物品の形状、模様若しくは色彩またはこれらの結合で、視覚を通じて美感を起こさせるもの」を、一方スペインや欧州共同体では「製品またはその構成部品の線、輪郭、色彩、形状、模様の構造、素材または装飾等を含む外観の特徴」としており、外から見えない状態にある構成部品の形状は対象外となります。共通するのはスペイン語で意匠権のことを工業デザインと呼ぶとおり、この権利を得るには、「工業的に大量生産できること」です。工業デザインは応用美術でもあり、ニューヨークのMOMAなど近代美術館で作品が展示されることも多々あります。日本のデザイナーでは、バタフライ・スツールや札幌冬季オリンピック聖火台などユニークな形態と意外な実用性を兼ね備えた作品で有名な柳宗理(やなぎ・そうり)氏、エンツォ・フェラーリなどの超高級車をはじめ、ロボット、都市計画のデザインなど、幅広いジャンルで活躍する奥山清行氏、スペイン人では豪華で華やかな靴のデザイナーのマノロ・ブラニク氏、家具のデザインで世界的に人気のあるパトリシア・ウルキオラ女史、家具やリヤドロのデザイナーのハイメ・アヨン氏などなど。
意匠権は大きく分けて国内・欧州・国際があります。日本において意匠は登録後に意匠公報に掲載されて第三者に公表されます。このため、登録よりも販売時期が遅れる場合には、意匠が模倣されてしまう危険があります。そこで、意匠法は秘密意匠制度を設け、意匠登録から3年以内に限り、登録意匠を秘密にすることを認めています。一方欧州共同体意匠権ではこのようなシステムはなく、その代わりに無登録共同体意匠制度と呼ばれる、出願手続き無しに3年間は自動的に権利を守る決まりがあります。このことは市場導入後商品の売れ行きを見て、改めて登録すべきかどうかを判断できるチャンスを与えます。
日本では1998年に法改正が行われ、組物の意匠制度(システムキッチンのような複数の品物を組み合わせて1セットになる物品のデザインは56種まで1度に登録できる)、部分意匠制度(独創的なデザインを持っている部分模倣もまた模倣である)、関連意匠制度(準備段階で作成されたデザインを正式デザインと関連するものとして意匠登録できる)という点で模倣対策にもなっています。
一方、スペイン意匠権で特徴的なのは、二次元や三次元の出願が可能で、同じ分類であれば1度の出願、1回の出願料で50種類までの製品デザインが登録できることです。また装飾品の出願を二次元で行う場合、出願分類が異なっても1度で50種類までのバリエーションを登録することもできます。
スペインのアリカンテにあるOHIM(欧州共同体商標意匠庁)で登録できる欧州共同体意匠権の特徴は、意匠分類が同一であることを条件に、複数の意匠を一出願に含めることができること、1度登録すれば欧州共同体の加盟国が増えても自動的にこれらの国でも権利が保護されることが挙げられるでしょう。無効になると欧州共同体全体に及んでしまうというデメリットもありますが、登録になった時のメリットは大きなものです。
国際意匠権とはヘーグ協定の制度に基づいて守られる権利で、日本や米国は加盟していませんがスペインは加盟しており、1度の登録ですべての加盟国において保護されます。
有効期間は日本が登録から20年なのに対し、スペイン・欧州共同体・国際意匠権は5年毎に更新する必要があり、一部例外を除いて最高25年まで延長が可能です。
特許権や実用新案権が技術的なアイデアを保護するのに対して、意匠権は商品デザインを保護します。デザインの優劣は製品の売り上げを左右するだけではなく、市場の倫理や要望を消化し、社会貢献や環境保護イノベーションを反映する必要不可欠なものとなりました。良いデザインに囲まれて、美をたくさん感じましょう。